捨て兎。

我が輩は兎である。名前はまだにゃい。野良兎だからだ。
名前という名前は長い間呼ばれていないので忘れてしまった。

「絶対捨てないからね…」

何事も「絶対」という事は無いのだから…解っていた…解っていた筈なのに…
信じていたのに裏切られる…そんな事はいつもの事だ。ご主人様は気まぐれだ。
もう何回目の事になるだろうか…拾う人あれば捨てる人あり…
「必要とされている」と感じなくなった時、私は捨てられる。

理由は色々だ。他に大切な人が出来た。面倒が見切れなくなった…
ある日突然、手の平を返したかのように冷たい仕打ちが行われる…
「可愛い」「面白い」「楽しい」と思われている間。その間だけしか
飼って貰えない。「つまらない」「飽きた」そんな理由で私は捨てられる。

愛想をふりまいても、芸の一つをしても…それが「面白くない」
と思われればそこで終わり。何が正しくて何が悪いのか。それはその人の
感性にもよるからワカラナイ。兎の一生にマニュアルはないけれど…

力(権力、血統等々)があるものは飼い主を選ぶ事が出来る。だが血統も無く
劣等種である我が輩には選ぶ権利等無い。対等ではないのだ。選ぶ側ではなく
選ばれる側でしかないのだ。捨てられた私は野良兎に戻る。生きる為には
奇麗事だけでは生きていけない…ゴミ箱をあさり、人のモノを盗み…一生懸命生きている…

兎でも学習能力はある。常日頃色んな芸を取得しようと頑張ってみた。
人によって芸を使い分けてみたり、ハードルが高そうな人は早めに見切りを
つけたり。その甲斐あってか、野良兎でいる期間は短くなった気がする…
だがしかし、同じ芸は飽きられる。そうするとまた捨てられてしまう。
継続しないのだ…長続きしないのだ。我が輩がやはりまずいのであろうか。

聞いてはいけない事を聞いてしまうからだろうか。黙ってうなずいておけば
いいものを…何故騒いでまくしたててしまうのか…
飼い主は怒り、私を投げ捨てた…

「捨て兎 拾う人なく 何処へ行く」

今日も待っています。拾う人が現れるのを…救いの女神が現れるのを…
いつか本当に、私をこの呪縛から助けだせる人が現れるのを…
それが何時になるのか解らない。拾う人無くそのまま力尽きてしまうかもしれない。
独りぼっちには慣れている…慣れている…(自分に言い聞かせる

それでも寂しい…やはり独りぼっちは寂しい。誰か我が輩を必要としている人は
いないだろうか…待つ事しか出来ない…そんなもどかしさと自分の無力さが嫌になる…
しかし立ち戻る事も休む事も許されない…信じて待つ事しか出来ないのだから…
自分から積極的にアプローチできる力量はないのだから…信じて…信じて…
また裏切られる…人など信じていない…しかし独りでは生きられない…
我が輩を助けてくれる人が現れる事を待っている、、、、そんな日のコト。

2004.01.18 創作小説編No.1
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